Column #02
「AIで工数削減」を見積に入れる前に、確かめるべき5つのこと
AIで作業は速くなった。それなのに、案件の粗利は下がっている。これから、こういう案件が増えていくはずです。
「この作業はAIを使うので、工数を大幅に減らせます」。提案や見積の場で珍しくなくなった説明ですが、AIによる効率化は、見積の中では前提条件の一つにすぎません。そして、AIを前提にした見積で粗利が下がる道筋は2つあります。前提が崩れて、削った工数が戻ってくること。前提どおりに速くなっても、契約の形によって売上が減ることです。
この記事では、それを防ぐために確かめたい5つのことを整理します。1〜4は前提が崩れないための確認、5は採算の確認です。1と2は現場で確認できますが、3〜5は、受注を決める方ご自身に判断していただきたいことです。
この記事のポイント
- 自社も、パートナーも、顧客も、AIを使える環境があるか
- 「何にAIを使い、どれだけ減るか」に根拠があるか
- 顧客は合意しているか。崩れたときの扱いが契約に書いてあるか
- 誰が観点を決め、誰が「イエス・ノー」を言うか。役割分担が決まっているか
- AIで速くなったとき、粗利がどう動くかを試算したか
1. 自社も、パートナーも、顧客も、AIを使える環境があるか
コラム#01でも触れましたが、まず確かめたいのは、AIを使う環境です。
使ってよいツールや、ユーザーごとの利用量・金額の上限は、会社ごとに決まっています。自社のメンバーは使えても、パートナー企業やオフショアのメンバーが同じ条件で使えるとは限りません。また、AIがプロジェクト管理ツールや資料の置き場につながっていなければ、効率化は進みません。
見落としやすいのが、顧客側です。多くの顧客は、いずれは運用・保守を自分たちで回したい、自走したいと考えています。プロジェクトの中でAIを前提に作った仕組みや資料が、顧客の環境で同じように使えなければ、引き渡した後に顧客が回せません。顧客側でどのAIが使え、どこまでつなげられるのかも、最初に確かめておく必要があります。
確認したい問いアサインする全員(自社もパートナーも)が、認められたツールを必要な量だけ使えるか。AIは、作業に必要なツールや資料につながるか。顧客は、引き渡した後もAIを使って運用・保守できる環境か。
2. 「何にAIを使い、どれだけ減るか」に根拠があるか
「AIを使う」と一口に言っても、使い道によって効果はまったく違います。デモ画面、資料、仕様書、ソースコード、テスト。それぞれで、減らせる工数も異なります。
だからこそ、「全工程で一律3割削減」のような数字ではなく、作業ごとに「AIを使わない場合」と「使う場合」を並べ、なぜ減るのかまで書いておくことが大切です。手間はかかりますが、これが見積の根拠になり、前提が崩れたときに見直す基準にもなります。
例:テスト仕様書の作成(数字は説明のための仮のものです)
- AIを活用しない場合:設計書を読みながら手で書き起こす。1画面あたり0.5日
- AIを活用する場合:設計書からAIでたたき台を作り、人が確認・修正する。1画面あたり0.3日
- 削減理由:たたき台づくりに必要な工数はAIで短縮。一方、業務ルールに合っているかの確認と修正は人が行うため、その時間は変わらない。
削減の見込みは、自社の過去の案件や、小さく試して測った結果に基づくものにします。また、チームが慣れるまでは効果はすぐには出ず、最初の数週間はかえって遅くなることもあります。
確認したい問い作業ごとに、AIを使わない場合と使う場合の工数を並べ、減る理由を書いているか。その見込みは、自社の実績や試行で測った数字か。慣れるまでの立ち上がりの期間を見込んでいるか。
3. 顧客は合意しているか。崩れたときの扱いが、契約に書いてあるか
自社がAIを使いたくても、顧客が認めているとは限りません。顧客の資料をAIに入力してよいか、どのツールなら使ってよいかは、顧客のセキュリティ方針や契約で決まります。しかも、受注前に了解を得ていても、途中で方針が変わったり、情報システム部門の判断で覆ったりすることがあります。
そこで大事なのが、AIの利用を、提案書や契約の「前提条件」として書いておくことです。前提が崩れたら工数・費用・スケジュールを見直す、という扱いを変更管理の対象として合意しておけば、削った工数を自社だけで抱えずに済みます。
前提条件の書き方の例
本見積は、当社が指定する生成AIツールを、設計書の作成とテストコードの作成に利用できることを前提としています。貴社の方針等によりこれらの利用ができなくなった場合は、工数・費用・スケジュールについて別途協議させていただきます。
(実際の文言は、自社の契約のひな形に合わせて調整してください。)
確認したい問い顧客は、AIを使った作業と、入力する情報・使うツールの範囲を認めているか。AIの利用が前提条件として提案書や契約に書かれ、崩れたときに見直せるようになっているか。
4. 誰が観点を決め、誰が「イエス・ノー」を言うか。役割分担が決まっているか
5つの中で、これがいちばん重要です。
AIを使うこと自体は、誰にでもできます。難しいのは、AIの出力に「本当にそうか」と問い、イエス・ノーを言って採否を決めることです。それができるのは、同じような案件を経験してきた人です。作業が速くなっても、この人の負荷は減りません。出力が増える分、むしろ増えます。
よくあるのが、何を作り、どれに顧客のサインオフをもらうかを決めないまま、AIが出した観点をすべてドキュメントにしてしまうケースです。設計書の数は膨らみますが、目的を一つずつ確かめると、内容が重複するものや、顧客に見せるには細かすぎるものが多く、後から不要と判断されるものも少なくありません。足りないのは、「何のためのドキュメントか」を整理し、「これは要らない」と判断できる人です。判断の基準を人が決めて渡せば、AIもある程度は判断できます。ただ、その基準がないまま、AIが自分から「要らない」と言うことはありません。
AIを使った進め方では、役割が3つに分かれます。①何を、どの粒度で書くかを決める ②AIを動かして形にする ③出力を確かめて判断する。①と③がないまま②だけを進めても、レビューする人の負担が増えるだけです。効率がよいのは、①で決めた観点でAIに書かせ、③を別の人が担う形です。
とはいえ、すべての案件に経験者を厚く入れられる会社はありません。だからこそ、誰が①と③を担い、経験者の時間をどの場面にどれだけ使うのかを、受注前に決めておく。社内で足りなければ、外部の経験者に③を頼むことも含めて、その時間と費用を見積に入れておきます。
確認したい問い観点を決める人と、出力にイエス・ノーを言う人は、体制に誰がいるか。その人たちの時間を、見積に入れているか。
5. AIで速くなったとき、粗利がどう動くかを試算したか
1〜4は、前提が崩れないための確認でした。最後は、前提どおりに速くなったときの話です。冒頭で挙げた2つ目の道筋は、ここで起きます。
稼働時間に応じて請求する準委任の契約で、AIを前提に人月を削って見積もれば、売上はその分減ります。一方で、AIの利用料という費用は増えます。顧客にとっては安くなりますが、自社の粗利は下がります。契約を更新するたびに「AIでもっと減らせるはず」と求められれば、この差は広がっていきます。
請負なら、効率化の恩恵は自社に残ります。その代わり、前提が崩れて工数が膨らんだときの超過も、自社が負います。契約の形によって、誰が得をし、誰が損をするかが変わるのです。
打ち手としては、たとえば次のようなものがあります。
- 成果物に対して支払う形を検討する。請負や、成果物の完成に対して支払う形の準委任(成果完成型)です。ただし、その分のリスクも引き受けます。
- 単価を見直す。AIを使いこなし、出力を判断できる人の時間の価値は上がっています。それを顧客に説明できるようにしておきます。
- AIの利用料の扱いを、提案の時点で決めておく。価格に含めるのか、別に請求するのかを合意しておきます。
確認したい問い契約の形(準委任か請負か)ごとに、AIによる効率化が売上・費用・粗利にどう効くかを試算したか。AIの利用料を、価格や契約の中でどう扱うかを決めているか。
「減る工数」と「増える工数」を分けて書く
5つを見てくると、AIで減る工数がある一方で、増える工数や費用もあることが分かります。問題は、減る方だけを見積に入れて、増える方を見ていないことです。
| AIで減る工数 | AIで増える工数・費用 |
|---|---|
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この2つを分けて見積に書いておけば、前提が崩れたときにも、どこを見直せばよいかがすぐに分かります。
受注前が、確かめられる最後のタイミング
AIの効率化は、前提を確かめたうえで使えば、粗利を上げる力にもなります。その前提を見直し、契約に書き残せるのは、受注の前までです。受注した後では、前提を変えるたびに、顧客との交渉が必要になります。
その見積の「AIによる削減」、前提は確かめてありますか。
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