Column #01
赤字案件の多くは、キックオフの日にはもう決まっている
過去最大の案件を受注した。あるいは、今まさに提案している。そんなとき、喜びと同時に「本当に赤字にならないか」という不安を感じる経営者や事業責任者は、少なくありません。
大型案件が赤字になったとき、原因は途中で起きた事故のように語られがちです。仕様変更、メンバーの離脱、想定外の不具合。
しかし振り返ると、その多くはキックオフの時点で、すでにサインとして現れています。
この記事では、そうした案件に共通する6つのサインと、キックオフ前に確認すべき問いを整理します。
始まる前から危うかった案件に共通する、6つのサイン
赤字に向かう案件は、体制・スコープ・見積・他社との連携・実現性・報告の仕組みのどこかが曖昧なまま走り出しています。
1. 体制:責任者が決まらないまま始まる
早く始めたい気持ちが先に立ち、PMも要員も揃わないまま着手する。とりあえず進めようと担当者1人か2人で回し始め、「シニアが入っているから大丈夫だろう」と進んでいく。
ただ、シニアにもそれぞれ専門があります。技術に強いシニアが、プロジェクト全体の管理にも強いとは限りません。デリバリー全体に誰が責任を持つのかが曖昧なままでは、問題が起きても判断する人がいません。
確認したい問いこの案件の責任者は誰で、いつから専任で入るか。誰が何を決めるのか、役割分担は決まっているか。必要な要員は、いつまでに揃うか。
2. スコープと成果物:何を作るかを顧客と合意していない
要件定義や設計をどの手順で進め、どんな目的のドキュメントをどれだけ作るのかが、顧客と合意されていない。作るものが決まっていなければ、工数も品質の基準も決められません。
ここにAIが加わると、問題は大きくなります。目的も本数も決めないまま、ふんわりした指示でAIに資料を作らせると、本来は20本前後でよかった設計書が30本、40本になる。今では珍しくない光景です。
必ずしも作らなくてよいドキュメントも、作れば管理が必要になり、中身には人の目を入れなければなりません。効率化のために入れたAIが、かえって自分たちの工数を膨らませていく。その可能性は、認識しておく必要があります。
確認したい問い作る成果物の一覧と、それぞれの目的・かける工数を、顧客に説明して合意しているか。
3. 見積と変更管理:前提が変わっても見直されない
提案の後で、顧客が提案時とは別の方式・技術を望む。やることが変わったのに、同じ見積・同じ金額のまま進めようとする。
見積の前提が崩れた時点で、その金額にはもう根拠がありません。
確認したい問い見積の前提と、含めない作業は文書になっているか。前提が変わったときの変更の手続きを、顧客と合意しているか。
4. 他社との依存関係:計画の統合を顧客任せにしている
デザインや一部の開発を別の会社が担っているのに、自社のマスタースケジュールだけを提示して「これで進めます」とする。他社との統合は、顧客側のPLに任せてしまう。
こうしたケースはよく見かけますが、それでうまくいった案件は、ほとんど見たことがありません。結局は誰かが統合を支えなければ、計画は回らないからです。だからこそ、自分たちが主体となって他社を巻き込み、他社の計画を組み込んだマスタースケジュールを、できるだけ早く顧客と握る必要があります。
その結果、計画の変更が必要になることもあります。それでも、直前になって伝えて顧客を慌てさせるより、早い段階で変えるほうがずっと健全です。リスクが早く表に出て、対策を考える時間も生まれるからです。
確認したい問い他社の計画を組み込んだマスタースケジュールを、自社が主体となって作り、顧客と合意したか。他社の作業は、実際に予定どおり進んでいるか。
5. 実現性の前提:検証しないまま約束している
「前の方式でできたから、今回もできるはず」と、知見の少ない領域で顧客に約束する。「AIで効率化できる」として、全工程をAI前提で見積もる。どちらも、確かめていない前提の上に計画が乗っています。
できなかったときには、顧客の期待値はもう管理できません。AIも、利用量に上限があったり、使える人や必要な資料にアクセスできる人が一部に限られたりします。
確認したい問い新しい技術について、社内に経験者はいるか。AIは、アサインする全員(自社もパートナーも)が使えるか。必要な資料にアクセスでき、利用量の見込みは立っているか。
6. 報告の仕組み:経営に本当の情報が上がってこない
過去最大の案件は、たいてい会社の肝いりのプロジェクトです。順調でないときに「順調ではありません」と言い出しにくい空気が、現場には生まれます。
その結果、経営者には本当の情報が上がらず、問題が見えたときには手を打てる時期を過ぎています。悪い知らせが早く届く仕組みは、自然にはできません。プロジェクトを始める前に設計しておく必要があります。
確認したい問い経営やスポンサーが知るべき情報と、その粒度・頻度を決めているか。悪い知らせを早く上げられる会議体と報告の流れを、キックオフ前に設計しているか。
コストより痛いのは、顧客の信頼
最初の整理を怠ると、手戻りが起きてコストが膨らみます。ただ、本当に痛いのはそこではありません。
大型案件を取るのは、その顧客と長く付き合っていくためのはずです。それなのに最初の数か月が混乱すれば、信頼は育ちません。
プロジェクトの立て直しにはお金がかかります。顧客との信頼の回復には、それ以上に時間がかかります。
立て直すより、最初に整える
最初につまずいた案件が、そのまま自然に立ち直ることは、ほとんどありません。キックオフの前に立ち止まって確認する数日は、後から数か月かけて立て直すことを考えれば、ずっと小さな負担です。
ただし、この確認を案件の当事者だけで行うのは簡単ではありません。早く始めたい、受注を逃したくないという力が働くなかで、自分たちの計画の穴に気づくのは難しいものです。大手SIerには受注前やキックオフ前の審査の仕組みがありますが、多くの会社にとって、そうした仕組みを社内に用意するのは簡単ではありません。その場合でも、案件に直接関わっていない経験者に一度見てもらうだけで、見え方は大きく変わります。
受注前・キックオフ前の案件に、ここで挙げたサインはありませんか。
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Valmoについて 大型案件の受注前とキックオフ直後に、提案や計画を外から審査し、不採算案件を防ぐ支援をしています。大手SIerのような審査部門を持たない会社の、「外付けの審査室」です。